「うつわの秋」にむけて深川窯研修が開催されました

8月30日・31日の2日間、「うつわの秋」運営スタッフのための萩焼深川窯研修会が開催されました。これは9月16日より長門湯本温泉街でスタートする同展覧会に関わるみなさんが、窯元を実際に訪問し作家との交流を通じて萩焼や深川窯の歴史や文化への理解を深める機会として特別に実施されたものです。

1日目の研修会では田原陶兵衛窯と新庄助右衛門窯を、2日目は田原陶兵衛窯と坂倉新兵衛窯を訪れた研修会。ここでは2日目の様子を一部写真を交えてご紹介します。

午後1時、温泉街から少し離れた里山にある深川萩の里「三ノ瀬(そうのせ)」地区入り口に集合したみなさんは、長門湯本温泉旅館組合の瀧口事務局長の案内のもと、坂倉新兵衛窯に向かいます。

一行を出迎えてくださったのは、十五代 坂倉新兵衛先生と坂倉正紘さん。約360年続く窯元の当主に出迎えていただき、少し緊張気味のみなさんでしたが、お二人の気さくな笑顔に場が和みます。

坂倉正紘さんの案内で、登り窯をはじめとする数々の創作の現場を見学するみなさん。正紘さん自らが、萩焼の主原料となる大道土や貴重な松材の薪、こだわりの釉薬について丁寧に説明してくださいました。

続いて一行が訪れたのは、山口県の指定文化財でもある「萩焼深川古窯跡群」の本窯跡。江戸時代中期に作られたこの巨大な連房式登り窯の遺構は、共同窯として大正時代まで使用されたと伝えられています。

その後、田原陶兵衛工房に移動したみなさんは、田原崇雄さんから深川萩の歴史についてお話を聞き、登り窯をじっくりと見学しました。締めくくりには全員がギャラリーにてお抹茶をいただき、十三代 田原陶兵衛先生も交えて和やかな談笑で研修会は幕を閉じました。

長い伝統を持つ創作の現場で、作陶家自らの説明を受けたな約3時間。9月16日からの「うつわの秋」開催を前に、運営スタッフのみなさんにとって、貴重な体験と学びの場となりました。ご協力いただいた先生方、ご参加いただいたスタッフのみなさん、本当にお疲れ様でした!

うつわの秋について

萩焼と温泉街の歴史
山口県長門市深川湯本には、約370年の歴史をもつ萩焼の窯元集落「三ノ瀬」があります。萩焼は16世紀末、毛利輝元公が朝鮮陶工を招いたことに始まり、茶道の世界で「一楽・二萩・三唐津」と称されるほど古くから愛されてきました。隣り合う長門湯本温泉も600年の歴史を誇りますが、長い歴史を持ちながらも、萩焼と温泉が一緒に何かをつくり上げる機会は、これまでほとんどありませんでした。

その転機となったのが2016年の温泉街マスタープランです。「文化体験」を温泉街の核に据える構想の中で、深川萩が地域を代表する文化として位置づけられました。旅館と窯元の若い世代が歩み寄り、ギャラリーカフェの運営を通じて対話と信頼を育み始めたのです。

「うつわの秋」のはじまり
2020年、新型コロナ禍で旅館も作家も活動の場を失った時期に、萩焼作家から「温泉街で萩焼を見てもらう機会を」との声が上がりました。これをきっかけに誕生したのが「うつわの秋」です。深川萩の全ての窯元と作家が一堂に会し、温泉街の中心・恩湯休憩室で展示を行うという、歴史上初めての試みでした。

「うつわの秋」は単なる展示会ではありません。旅人はカフェや宿で萩焼に触れ、やがて窯元を訪ねる。地域の人は日常に器を取り入れながら、お気に入りを探す。旅館スタッフも作家から学び、その経験を日々のおもてなしに生かしています。器を通じて、旅人・暮らす人・働く人が交わり、日常と旅が自然に結びつき、この場所ならではの体験が育まれていきます。

未来へつなぐ文化体験

かつて茶道が生活に根付いていた時代、人々は器を通じて文化に親しみました。現代ではその習慣は薄れましたが、代わりに「どんな人が、どんな場所でつくられたものか」に価値を見出す人が増えています。温泉地もまた、画一的な非日常ではなく、その土地ならではの文化体験を求める旅人が増えています。「うつわの秋」は、そうした新しい旅のかたちに応える営みでもあります。

伝統をただ守るのではなく、時代に合わせて表現を創造し続けること。その営みのひとつの姿が「うつわの秋」です。器を手にとり、触れ、使う。その体験が地域の文化を未来へとつなぎ、長門湯本温泉の秋を彩っていきます。