うつわの秋2025~オープニングセレモニー&各会場レポート~

「うつわの秋2025」オープニングセレモニーが開催されました

2025年10月3日(金)、恩湯会場にて、「うつわの秋2025」オープニングセレモニーが開催されました。

雨にしっとりと包まれた長門湯本温泉で、今年も「うつわの秋」が幕を開けました。
6回目を迎える今年のテーマは「花巡り」。
萩焼深川窯の作家たちが一堂に会し、器とともに歩く秋のひと月がスタートしました。

開会に際しては、来賓を代表し大谷恒雄長門副市長にご挨拶いただきました。
副市長は、360年もの歴史を受け継ぐ深川窯の営みに深い敬意を示し、「その成果は長門市にとって貴重な財産です」と述べました。
また「うつわの秋」が温泉街の秋の風物詩として定着してきたことに触れ、「萩焼の魅力を改めて感じ、そぞろ歩きを楽しんでいただければ」と来場者へ呼びかけました。

続いて、萩焼深川窯の作家、坂倉新兵衛氏より、今年の取り組みについて紹介がありました。 「第一回のころから“温泉街の秋の風物詩に”と願ってきた。それが少しずつ形になってきた」と語る新兵衛氏。 今年のテーマ「花巡り」では、フラワーアーティスト田中孝幸さんを迎え、花を生ける特別展示も実現。 「深川の風土を感じながら、器と花の新しい関係を楽しんでほしい」と話しました。

イベントを共同開催する長門湯本温泉まち株式会社の木村隼斗エリアマネージャーからは、「うつわの秋」の全体概要と会場紹介が行われました。
今年も5つの会場にて、8名の作家による作品が展示されます。

また、特別企画として、「まちの番台」での深川萩の器を使用した観葉植物展示販売や、オリジナルクッキーの販売、そして田中孝幸さんによるコラボレーション展示「陶の花」(会場:三ノ瀬公会堂)など、多彩な取り組みも紹介されました。

さらに、恩湯会場の運営には温泉街の旅館スタッフが協力。
事前に深川萩について学び、その知識を生かして来場者を迎えています。
木村氏は「学びを重ねながら、地域に息づく秋の催しに育てていきたい」と語り、地域とともに歩むイベントへの願いを込めました。

開会式を終え、いよいよ温泉街の5つの会場で展示がスタートしました。

それぞれの会場には、異なるテーマと魅力が詰まっています。

1.恩湯

長門湯本温泉を象徴する「恩湯」では、メイン会場として深川萩5窯8作家の作品が展示されています。

2.おとずれ堂

竹林の階段横に佇む古民家ギャラリーでは、茶陶やオブジェ等、より作家性の強い作品が展示されています。

3.cafe&pottery音

音信川沿いのカフェギャラリーでは、カップやお皿など、より日常に取り入れやすい作品の展示販売が行われています。

4.大谷山荘

大谷山荘2階お土産処「山茶花」内ギャラリーにて、深川萩作家の酒器を展示します。

5.玉仙閣

玉仙閣の開放的なロビー空間では、田原崇雄氏によるTシリーズが特別展示されています。日常使いにも最適な、新しいスタイルをご覧いただけます。

受け継がれてきた深川萩の技と手仕事のぬくもりが、秋の温泉街を静かに包みます。
やわらかな光の中で、うつわと花が響き合う長門湯本の秋をお楽しみください。

うつわの秋特設HPはこちら>

うつわの秋について

萩焼と温泉街の歴史
山口県長門市深川湯本には、約370年の歴史をもつ萩焼の窯元集落「三ノ瀬」があります。萩焼は16世紀末、毛利輝元公が朝鮮陶工を招いたことに始まり、茶道の世界で「一楽・二萩・三唐津」と称されるほど古くから愛されてきました。隣り合う長門湯本温泉も600年の歴史を誇りますが、長い歴史を持ちながらも、萩焼と温泉が一緒に何かをつくり上げる機会は、これまでほとんどありませんでした。

その転機となったのが2016年の温泉街マスタープランです。「文化体験」を温泉街の核に据える構想の中で、深川萩が地域を代表する文化として位置づけられました。旅館と窯元の若い世代が歩み寄り、ギャラリーカフェの運営を通じて対話と信頼を育み始めたのです。

「うつわの秋」のはじまり
2020年、新型コロナ禍で旅館も作家も活動の場を失った時期に、萩焼作家から「温泉街で萩焼を見てもらう機会を」との声が上がりました。これをきっかけに誕生したのが「うつわの秋」です。深川萩の全ての窯元と作家が一堂に会し、温泉街の中心・恩湯休憩室で展示を行うという、歴史上初めての試みでした。

「うつわの秋」は単なる展示会ではありません。旅人はカフェや宿で萩焼に触れ、やがて窯元を訪ねる。地域の人は日常に器を取り入れながら、お気に入りを探す。旅館スタッフも作家から学び、その経験を日々のおもてなしに生かしています。器を通じて、旅人・暮らす人・働く人が交わり、日常と旅が自然に結びつき、この場所ならではの体験が育まれていきます。

未来へつなぐ文化体験

かつて茶道が生活に根付いていた時代、人々は器を通じて文化に親しみました。現代ではその習慣は薄れましたが、代わりに「どんな人が、どんな場所でつくられたものか」に価値を見出す人が増えています。温泉地もまた、画一的な非日常ではなく、その土地ならではの文化体験を求める旅人が増えています。「うつわの秋」は、そうした新しい旅のかたちに応える営みでもあります。

伝統をただ守るのではなく、時代に合わせて表現を創造し続けること。その営みのひとつの姿が「うつわの秋」です。器を手にとり、触れ、使う。その体験が地域の文化を未来へとつなぎ、長門湯本温泉の秋を彩っていきます。